大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和25年(れ)1248号 判決 1951年2月20日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人中野博義、同瀬尾蔵治の上告趣意は末尾に添附した別紙記載のとおりである。

弁護人中野博義、同瀬尾蔵治上告趣意各第一点について。

然し、原判決の確定した事実によれば被告人は当時酩酊のため乱暴していた判示松原一郎こと金亭鎮から絡まれて何らの理由なく頭部及び頬を殴打されその場は一旦別れたがやがて再び同人と顔を合わせたところ、更に同人のため股部を足蹴にされたので、憤激の余りその顔面を殴打したところ、金がなおもその懐中に手を差し入れ立ち向う態度を示したので、これは匁物で危害を加えようとするものと速断し機先を制して所携の西洋剃刀で同人の顔面を斬りつけたというのであるから、被告人の判示所為は喧嘩闘争の加害行為に他ならぬものであって、原判決が説示する如く過剰防衛又は誤想防衛とならない。従って論旨は理由がない。

弁護人中野博義上告趣意第二点について。

原判決には判事全員の契印がないから判決書に判事の契印を欠いた違法があるというのであるが、判決書は判事これを作成し(旧刑訴六七条)裁判をした判事署名捺印すべきもの(同六八条)であるから合議裁判所における裁判書には合議に関与した判事全員においてこれに署名捺印すべきは当然であるが旧刑訴七一条二項によれば書類には作成者が毎葉契印すべきことを規定するのみで合議裁判所における裁判書にはその裁判官全員の契印を要求していないのであるから、裁判をなした判事の一名がこれを作成し、契印すれば同条の要件を欠いたものということを得ない。(大正一三年(れ)第一一六七号同年九月六日大審院判決参照)論旨は理由がない。

同三点について。

量刑不当の主張であって適法な上告理由とならない。

弁護人瀬尾蔵治上告趣意第二点について。

量刑不当の主張であって適法な上告理由とならない。

よって旧刑訴四四六条により主文の通り判決する。

以上は裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上 登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例